米国5月小売売上高が予想下回る減少、消費の先行きに不透明感
米5月小売売上高の発表
米商務省が2025年6月17日に発表した5月の米国小売売上高(季節調整済み)は前月比0.9%減少し、1月以来4カ月ぶりの大幅な落ち込みを記録した。この下落幅は市場予想(中央値0.7%減)を上回るもので、予想レンジ(1.7%減~0.3%増)の下限に近い数値となった。特に注目されるのは、4月の数値が当初発表の0.1%増から0.1%減へと下方修正された点で、消費の減速傾向がより明確に表れる結果となった。
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自動車販売とガソリンスタンドの不調
今回の売上高減少の大きな要因とされるのが、自動車関連の販売不振である。これは、関税導入を見越した消費者の駆け込み需要の反動と見られており、特に高額商品の購入に対する慎重な姿勢がうかがえる。自動車および部品販売店の売上は3.5%の減少と、前月(0.6%減)からさらに悪化した。
また、ガソリン価格の下落も全体の売上に影響を与えた。ガソリンスタンドの売上高は2.0%減少し、原油価格の動向に敏感な分野であることが改めて確認された。
飲食・建材は低迷、オンライン販売は健闘
業種別に見ると、他にも建材・園芸用品が2.7%減少、電気・家電量販店が0.6%減少とマイナスが目立った。また、サービス業で唯一統計に含まれる飲食店も0.9%の減少となり、消費者のサービス支出にもやや陰りが見える結果となった。
一方で、オンライン販売は0.9%増と好調で、衣料品小売店(+0.8%)や家具(+1.2%)、スポーツ用品・書籍(+1.3%)など、生活関連品の一部カテゴリーではプラス成長が確認された。
コア売上高は増加
自動車、ガソリン、建材、飲食を除いた「コア売上高(コントロールグループ)」は0.4%の増加となり、前月の0.1%減(修正後)から回復を見せた。これは、必ずしも全体の消費活動が落ち込んでいるわけではないことを示しており、特に堅調な賃金上昇が家計の支出を一定程度支えていると考えられる。
景気後退懸念が拡大、米国消費の二極化進む
オックスフォード・エコノミクスの副チーフエコノミスト、マイケル・ピアース氏は、「自動車など高額商品の販売には関税発表が明確に影響している」と指摘した。ただし現時点では、個人消費全体の鈍化については「まだ明確な兆候は見られない」としつつも、「年後半には関税が実質可処分所得に与える影響が顕在化し、より持続的な景気後退が続く可能性がある」と警戒を示している。
また、ブルームバーグ・ニュースの委託で先月行われた世論調査でも、回答者の5人中3人が景気後退への懸念から支出を抑制していると回答した。特に外食や娯楽などサービス関連の支出を減らす動きが顕著で、個人消費における「質の変化」も浮かび上がってきている。
現在のところ、関税措置が米国のインフレを直接的に加速させた証拠は見られていないが、高止まりする生活費や高金利環境が続く中で、家計の財務状況は徐々に悪化している。特に中低所得層を中心に、消費の二極化が進んでおり、今後の雇用や賃金の動向が、個人消費全体の方向性を左右する鍵となるとみられている。FRBの金融政策の行方とあわせて、今年後半の米国の消費動向には不透明感が一層強まっている。
一方で、キャピタル・エコノミクスの北米担当エコノミスト、ブラッドリー・サンダース氏は、5月の小売売上高の減少について「関税前の駆け込み需要の反動や米東部の悪天候といった一時的要因によるものであり、6月には反転する可能性が高い」との前向きな見方を示した。
今後の見通し
今回の5月小売売上高のデータは、一見すると全体の消費意欲の低下を示しているように見えるが、背景には一時的な要因や価格変動が大きく影響している。コア売上高の増加やオンライン販売の伸びからは、米国の消費基盤の底堅さも感じられる。一方で、関税政策や高金利の継続、消費者心理の不安定さが今後の消費動向に与える影響については、引き続き注意が必要だ。
今後の動向としては、6月以降の反発が本格的に確認されるかどうかが一つの鍵となるだろう。消費者の動きと経済政策のバランスが問われる局面が、今まさに到来している。
よくある質問
Q1.米国小売売上高とは?
A1.米国小売売上高とは、国内における小売業やサービス業の売上を集計した経済指標であり、アメリカの個人消費の動向を把握する上で重要な役割を果たしている。米国経済では個人消費がGDPの約70%を占めており、これは他の先進国と比べても高い比率だ。そのため、消費の増減が景気全体に与える影響は大きく、この指標は金融市場や政策判断においても注目されている。
Q2.小売売上高とコア売上高の違いは?
A2.小売売上高は全体の販売額を示すが、コア売上高は価格変動が激しい「自動車」「ガソリン」「建材」「飲食」を除いたデータで、より実質的な消費の動向を把握するために重視される。
Q3.米国小売売上高が減少すると、為替市場にはどのような影響があるのか?
A3.米国小売売上高の減少は、個人消費の鈍化を示す可能性があり、景気減速への懸念を強める材料となる。このため、ドル売りが優勢になりやすい傾向がある。例えば、今回米国小売売上高の落ち込みを受けて、米国の消費に減速の兆しが見られたことで、先行き景気への警戒感が広がり、一時的に円買い・ドル売りが進む場面もあった。
ただし、こうした動きは市場予想やその他の経済指標とあわせて総合的に判断されるため、反応が限定的にとどまることもある。