米国5月製造業景気、6カ月ぶりの低水準に後退
米国5月のISM製造業景況指数の発表
2025年6月2日に米供給管理協会(ISM)が発表した5月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は48.5と、6カ月ぶりの低水準に沈んだ。前月(4月)の48.7からの小幅な下落ではあるものの、3カ月連続の悪化となり、米製造業が再び減速局面に入っていることを示唆している。
ISM製造業景況指数は景況の拡大・縮小を示す分岐点が50とされており、今回の48.5という数値は製造業活動の縮小を示している。一方で、ISMが経済全体の拡大と見なす最低基準である42.3は上回っており、米経済全体の後退リスクまでは示していない。ただし、市場予想(49.3)を下回ったことで、製造業に対する警戒感は一段と高まった。
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関税の影響で物流に支障、供給不足の兆し
今回のISM製造業景況指数低下の背景には、対中関税の影響によるサプライヤーの納期遅延や供給不足の可能性が挙げられている。納入を示す指数は55.2(4月)から56.1(5月)へと上昇し、2022年以来の高水準を記録した。この指数は50を超えると納期遅延を示すため、サプライチェーンの逼迫が深刻化している兆候だ。
通常、納期遅延は需要過多など好景気と関連するが、今回のケースでは関税措置による物流のボトルネックが主因と見られており、楽観視はできない。
新規受注はわずかに改善、雇用・価格には停滞感
ISM製造業景況指数構成項目の一部では、わずかな改善も見られた。新規受注指数は4月の47.2から47.6へと微増した。一方で、雇用指数は46.5から46.8と小幅に上昇したにとどまり、企業の採用意欲は依然として低調だ。
また、インフレ圧力の先行指標とされる支払い価格指数は、4月の69.8から69.4へと低下した。ただし依然として高水準にあり、原材料価格の高止まりが続いていることを示している。
業種別では明暗、縮小が拡大を上回る
業種別の動向をみると、輸送機器、化学製品、一次金属など7業種が縮小した。一方で、家具、電気機器、家電部品、機械など7業種が拡大しており、製造業全体としては依然として二極化した状況が続いている。
経済アナリストの見解:企業は不透明な関税政策に翻弄
経済アナリストの間では「関税政策の不透明さが最大の要因」との指摘が強まっている。オックスフォード・エコノミクスのマシュー・マーティン氏は、「(関税導入前の)前倒し需要が一段落したため、製造業部門の先行き見通しは思わしくない」と述べ、「企業は原材料費の上昇や供給の混乱に直面しているほか、新規注文へのコミットメントに慎重な顧客への対応に苦慮している」と指摘した。
また、パンテオン・マクロエコノミクスのオリバー・アレン氏は、「在庫が減少するにつれ、製造業者がサプライチェーンの上流にコストを転嫁する圧力が高まる」とし、物価面への波及効果にも警戒を促した。
さらにウェルズ・ファーゴのシャノン・グレイン氏は、「関税措置の発表と取り下げが繰り返される中、多くの企業は事態が明らかになるのを待っている」と述べ、政策の一貫性の欠如が企業活動に与える影響を強調した。
今後の見通し
今回のISM製造業景況指数の結果は、米中間の貿易問題が再び経済の足を引っ張っている実態を浮き彫りにした。今後は、関税政策の方向性、米企業の対応力、そしてサプライチェーンの改善余地が、製造業の回復を占うカギとなりそうだ。
よくある質問
Q1.ISM製造業景況指数とは?
A1.ISM製造業景況指数は、米国供給管理協会(ISM)が毎月発表する製造業の景気動向を測る総合指数だ。400社以上の製造業購買担当者へのアンケート調査をもとに、新規受注・生産・雇用・納入業者・在庫の5つの主要指標を算出し、50を境に景気拡大(50以上)か縮小(50未満)かを判断する。金融市場では株価や為替相場に大きな影響を与えるため、投資家や政策当局が注視している。
Q2.購買担当者景気指数(PMI)とは?
A2.購買担当者景気指数(PMI)とは、企業の購買担当者を対象に実施される景気動向調査の結果を基に算出される指標だ。主に製造業とサービス業の経済活動を測定し、景気の先行指標として活用される。
PMIの結果が市場予想を上回ると、景気の拡大が期待され株価や通貨(特にドルなど)が上昇しやすい。一方、予想を下回ると景気減速懸念から売り圧力がかかることが多い。
Q3.製造業PMIとISMの違いは?
A3.ISM製造業指数は米国供給管理協会が発表する米国限定の指標で、400社以上の大企業を調査対象とし、毎月第1営業日に公表される。一方、PMIはS&Pグローバルが発表する国際的な指標で、世界各国の中小企業も含めて調査する。両者とも50が景気拡大/縮小の分岐点だが、ISMはFRB政策や米国市場に、PMIは国際景気動向に強い影響を与える。ISMが米国特化型なのに対し、PMIはグローバル比較が可能という特徴がある。