米ISM非製造業景況指数が50割れ、サービス業の不透明感強まる
米国5月のISM非製造業景況指数の発表
米供給管理協会(ISM)が2025年6月4日に発表した5月の非製造業景況指数(総合指数)は、前月の51.6から49.9へと低下し、2024年6月以来の低水準を記録した。景況感の拡大と縮小の境目となる「50」を下回ったのは約1年ぶりで、米国サービス業の活動が再び収縮局面に入った可能性が示唆される。
この結果は、市場予想(52.0)も大きく下回っており、米経済が高インフレと低成長の板挟みとなる「スタグフレーション的」局面に直面しているリスクが浮き彫りになっている。
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新規受注が急減、関税先行需要の反動も
新規受注指数は前月52.3から46.4へと5.9ポイント急落した。これは、企業が前倒しで注文を出していた反動や、関税の影響を警戒して注文を控えている状況を反映している。特にトランプ政権による輸入関税引き上げを見越した4月までの先行需要の反動減が5月の数値を押し下げた。
投入価格が22年11月以来の高水準
インフレ圧力を示す投入価格指数は前月65.1から68.7へと急騰し、2022年11月以来の高水準を記録した。エネルギー価格や輸入原材料コストの上昇に加え、関税引き上げによるコスト転嫁が価格上昇に拍車をかけている実態が明らかになった。これに対し、サプライヤー納入指数は51.3から52.5へ上昇し、供給網の制約が継続していることを示唆した。
雇用は小幅改善も業種間格差拡大
雇用指数は49.0から50.7へと1.7ポイント改善し、50ラインを回復した。ただし業種別では、公共管理(54.3)や医療・社会支援(53.1)など10業種が拡大した一方、小売(48.5)、建設(47.9)、運輸・倉庫(47.3)など8業種が縮小した。関税の影響を直接受ける業種を中心に雇用環境の悪化が顕著となっている。
在庫水準にも警戒感、過剰在庫が製造業へ波及の可能性
5月は在庫そのものは減少したものの、在庫に対するセンチメント指数は62.9と、昨年7月以来の高水準に急上昇した。この背景には、企業が依然として「在庫が過剰」との見方をしている実情があり、今後数か月の製造業への下押し圧力となる恐れがある。
専門家の見解:深刻な縮小ではなく、不確実性の表れ
ISM非製造業景況調査委員会のスティーブ・ミラー委員長は、今回の結果について「49.9という水準は、深刻な景気後退を示しているわけではない」と説明した。そのうえで、「むしろ、先行き不透明感の強さを反映している」と指摘した。
特に注目されるのが、トランプ政権による対中関税の引き上げを含む貿易政策への企業の反応である。ミラー委員長は「多くの企業が、今後の関税政策の行方が明確になるまで発注を控えたり、規模を縮小するといった行動を取っている」と明かし、政策の不透明さが投資や仕入れの判断を難しくしていることを強調した。
ISM製造業指数も低迷、関税環境が経済の足かせに
同じ週に発表されたISM製造業景況指数も3カ月連続で50を下回る水準が続いており、製造業・非製造業の両分野で景況感の悪化が鮮明になってきた。
INGのチーフ国際エコノミスト、ジェームズ・ナイトリー氏は「貿易環境に関する明確な見通しが得られるまで、企業は投資に慎重な姿勢を崩さない」と述べており、今後の経済指標や関税政策の動向が、企業活動や景気の行方を左右する重要なファクターとなりそうだ。
今後の見通し
今回のISM非製造業景況指数の結果は、単なる月次変動にとどまらず、地政学的リスクや政策不透明感が企業活動に与える影響の大きさをあらためて浮き彫りにした。関税引き上げによる需要の鈍化とコストの上昇が同時に進む状況は、景気回復の足取りを鈍らせる可能性がある。
市場関係者は、6月の連邦公開市場委員会(FOMC)において、今回のISMデータが金融政策の転換を促す可能性にも注目している。スタグフレーションリスクの高まりを背景に、利下げ時期を巡る議論が活発化する見込みだ。
よくある質問
Q1.ISM非製造業景況指数とは?
A1.ISM非製造業景況指数とは、米供給管理協会(ISM)が毎月発表する、サービス業を中心とした非製造業の景況感を示す経済指標だ。50を基準に、上回れば拡大、下回れば縮小を意味する。米国経済の約7割を占めるサービス業の動向を反映するため、景気や金融政策を占う重要な先行指標として注目されている。
Q2.ISM製造業景況指数とは?
A2.ISM製造業景況指数は、米国供給管理協会(ISM)が毎月発表する製造業の景気動向を測る総合指数だ。400社以上の製造業購買担当者へのアンケート調査をもとに、新規受注・生産・雇用・納入業者・在庫の5つの主要指標を算出し、50を境に景気拡大(50以上)か縮小(50未満)かを判断する。金融市場では株価や為替相場に大きな影響を与えるため、投資家や政策当局が注視している。
Q3.ISM非製造業景況指数とISM製造業景況指数のどちらが重要か?
A3.どちらも重要だが、現在の米国経済ではISM非製造業景況指数の重要性が高まっている。かつては製造業中心の経済だったため製造業指数に注目が集まったが、現在はサービス業主導型経済に移行しており、ISM非製造業景況指数がより経済の実態を反映すると考えられている。